「2100円になります。」



お金を払おうと財布の中を見た。




ゲッ……1000円札ないじゃん。


しょうがない、5000円札から出すか。










#1「野口の時代」










「ごめんさない…」




恥ずかしいなぁ。


あーあー…店員さんこっち見てるよ。


首傾げてるし…。






「2000札が入ってもよろしいですか?」





へっ……?


2000円札…?



そういえば、そんなようなものが


2000年に発行されたような……







「あの〜」


「は、はいっ。お願いします。」




どうやら、自分の世界へ旅立とうとしていたらしい。








「ありがとうございましたー!」




店を出てから財布の中を、そっと覗いてみた。


2000円札が、2枚。




…最近使ってなかったから忘れてたよ。


2000円札という便利なものがあったんだよね。






1000円札とかが新しくなっちゃったもんだから、

きっと2000円札のこと忘れられちゃったんだよ。



今の時代は野口さんだからね!






『ドンッ』


「あっ……ごめんなさいっ」





下を向いて歩いていたもんだから、

人にぶつかってしまった。






「いってーな!何処見て歩いてんだよっ!!」





「下ですよ、下。」なんて、とてもじゃないけど言えない。


どうやら柄の悪い人にぶつかってしまったらしい。








「オイ!聞いてんのか!?」


「ご…ごめんなさいっ」


「よく見たら可愛い顔してんじゃん。今から俺と遊んでくれたら許してあげるよ。」


「やっ…今急いでるんで……」


「ねっ?行こうよ、許してあげるって言ってんじゃん?」







はっきりいって、ものすごく怖いです。


こういう人に絡まれたの、初めてだし。


怖いよぅ…っ!






「ごめんなさい…ごめんなさい…」


「うっせーな!テメェはついてこればいいんだよ!!」





怖くて怖くて…ただ目をギュっと瞑っていたら



涙がボロボロと落ちてきた。







「やっ……!やだっ!!」


「うるせぇなっ!!」


「おい、ヤメロ。イヤがってんぞ?」


「うっせーっ!……?」


「へっ……?」







誰だろう…?


助けて、くれるの?





「お…お前!!たしか……っ!」




知り合いなの?







「つ……!土屋光!!」


「オウ。」







「嫌がってんだろ!?これ以上この子に手ェ出すんなら…俺が相手するぜっ!」


「っ…。スイマセンでしたーっ!!」






そう言って、ぶつかった男の人は逃げていった。



そんなに怖がってるってことは…


この人もそっち系の人っ!?





「うっ……。」



しかもこの人、すっごく背高いよ…。


目の先が…お腹と胸の間くらいかな?









っ…怖い………。






怖いよぉ………っ!!










「っ……!!」


来るっ!!




























「――――大丈夫か?」


「へっ?」





拍子抜けした声を出してしまった。


何?ただ単に助けてくれただけ…?


何もしない?怒鳴ったりしない?






「オイ、大丈夫かって聞いてんだろ?」





腰を屈めて、私の顔を覗き込んでくる。


つり上がった瞳に、私の泣き顔が映る。








「…っ………大丈夫ですっ…」




正直、まだ怖い。



涙が止まらない。






「大丈夫じゃねーだろ?全然涙止まんねーし…」




まったく、だ。


涙は、一向に止まる気配を見せない。









「………送ってく。」


「えっ…?」


「また絡まれるかもしれねーし。」



「っ………」






毎回、絡まれるわけでもないけれど


送ってもらうことにしよう。


この人の隣は安心できる。






「…ありがとうございます………っ」


「オウ。」





その笑顔は優しくて、


とても心地いい。







『人は外見で判断しちゃいけない』ということが


とてもよく解ったよ。



















「あっ…もう此処でいいです。ありがとうございました。」






深々と頭を下げて、お辞儀をした。








家に着いたころには9時を回っていた。



明日から、『新生活』といっても過言じゃない生活が始まる。



寝る準備をして、プリンを食べて、早めに寝た。









夢の中で、野口英世さんと福沢諭吉さんが



障害物リレーをやってるよ。








何故っ!?